1 CRPSでもウソ医学、ウソ理屈が多用されています。
「ウソ医学とウソ理屈」の項目で述べましたが、医学的争点が問題となる交通事故訴訟では、加害者側は多種多様の虚偽ないし根拠薄弱な医学的知見(以下では、ウソ医学といいます)、ウソ医学を支えるための特殊な誤った理屈(以下では、ウソ理屈といいます)を主張します。CRPSの事案もこの点は同じです。
ウソ医学やウソ理屈は加害者側の医学意見書で主張されることが多く、日々新しい虚偽主張が開発されています。実際にもこれに騙された裁判例が多数を占める状況となっています。以下では、CRPS事案でのウソ医学、ウソ理屈の一部について述べます。このほかにも多数のウソが述べられます。この点はブログでも書いています。
2 よく見られる誤り
CRPS(RSD、カウザルギー)について述べている書籍やホームページには以下のような説明がよく見られます。
(よく見られる誤り)
CRPS(RSD)と認められるためには、慢性期に生じる以下の3つの症状が確認される必要があります。
①関節拘縮
②骨の萎縮
③皮膚の変化(皮膚温の変化、皮膚の萎縮)
この全てが健側と比較して明らかに認められる場合に限り、RSD(CRPS)として7級、9級、12級の後遺障害に認定されます。労災や自賠責でもこの基準が採用されています。
これはCRPS(RSD)に関するよくみる説明ではありますが、この部分だけでいくつもの誤りがあります。
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診断が正しいかどうかにより症状の存否や程度が決まるわけではありません。従って、CRPS(RSD、カウザルギー)であるかどうかを検討することにより、症状(後遺障害)の存否や程度が変わるわけではありません。正しくは、症状の存否や程度が確定している場合に診断を行います。症状や検査結果が確定していることが診断を行う大前提であり、診断の結果、症状の存否や程度が変更されることはあり得ません。
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労災や自賠責では診断が正しいかどうかを認定しません。従って、RSD(CRPS)であるかどうかを判断しません。以上の第1、第2については「どうして診断を検討するのですか?」の項目でも述べました。
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CRPSに必須の症状が1つたりとも存在しないことは、世界中の医師が認めるごく初歩的な医学的常識です。この点は私のブログでも繰り返し述べてきました。
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労災や自賠責でのRSDの3要件は、RSDであるかどうかを判断する要件ではなく、カウザルギーと同様に扱かえるかを判断するための要件です。これは基準に明記されています。
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CRPSで症状が重い場合は、上記の後遺障害等級に縛られることなく、被害者の後遺障害に見合った主張をする必要があります。
上記のほかにも多くの問題点があり、私のブログではこの点についても述べています。上で列挙したことはごく初歩的なことです。しかし、この初歩レベルのウソ医学やウソ理屈に完落ち状態で騙された裁判例があまりにも多いというのが実情です。
3 CRPSには必須の症状は1つも存在しません
「どうして診断を検討するのですか?」の項目でも述べましたが、被害者の症状をCRPSと評価できるかどうかは、症状の存否や程度には関係しないため、診断が正しいかどうかを検討することにおいてすでに誤りがあります。労災や自賠責でも「RSDであるかどうか」を判断しません。自賠責ではあたかも診断を検討したかのような表現が用いられることもありますが、よく見ると診断を検討していません。
この点をひとまず置くとして、CRPSに必須の症状が1つたりとも存在しないことは、世界中の医師が認めるごく初歩的な医学的常識です。しかし、被害者側の弁護士がこの点さえも主張していないまま、加害者側のウソ医学が採用されている裁判例が非常に多く見られます。
CRPSに必須の症状が存在しないことは日本版のCRPS判定指標から即座に導かれます。日本版の判定指標(臨床用)では5項目のうちいずれか2項目を自覚症状と他覚所見で満たせば陽性(感度82.6%)とされます。なお、感度とは対象疾患の患者が検査で陽性となる度合いで、特異度とは対象疾患の患者ではない人が検査で陰性となる度合いです。日本版の判定指標の5項目をAないしEとした場合に陽性となるのは(AB、AC、AD、AE、BC、BD、BE、CD、CE、DE)の10通りです。患者の症状がABであってもDEであっても陽性です。しかも、CRPS患者の17.4%はAないしEのうちいずれか1項目しか当てはまりません(感度82.6%より)。以上からCRPSに必須の症状が1つたりとも存在しないことは容易に導かれます。
これはごく初歩的な医学的常識に属することです。しかし、被害者側の事件を受けている法律事務所のホームページの大多数はこの部分で誤った内容を書いています。
4 悪質なウソ医学が蔓延しています
交通事故訴訟では加害者側は被害者に対するCRPSとの診断が正しいことが必要である(被害者が証明するべき事実である)との誤った主張をすることが恒例となっています。しかも、CRPSには必須の症状が多数あるかのように主張することが恒例化しています。これはかなり悪質なウソ医学です。この主張は医師名義の医学意見書により主張されることが多く、事案ごとにその事案の被害者で確認されなかった(または存在を否定する)各種の症状が必須であると主張することが恒例となっています。
しかも、これはCRPS事案において用いられるウソ医学のごく一部に過ぎません。私のブログではCRPSに関する多くの裁判例を検討しましたが、多種多様のウソ医学が加害者側から主張されています。
重症となることが多いCRPSの事案で被害者の症状を否定し、被害者が詐病を主張しているとするために、ここまで多種多様のウソ医学やウソ理屈を必死に主張することは道徳的には絶対に許されることではありません。
しかし、CRPSのみならず、高次脳機能障害、頚髄損傷、軽度外傷性脳損傷など被害者の後遺障害が重いほど、加害者側(損保側)は多種多様なウソ医学、ウソ理屈を繰り出して必死に被害者の症状を否定しようとすることが恒例となっています。重症事案でない場合でもウソ医学、ウソ理屈は多用されています。