弁護士による交通事故ブログ (転載禁止)

交通事故訴訟の特殊な現状

1 被害者の症状が認められない事案が非常に多い

 一般にはほとんど知られていませんが、交通事故で重度の後遺障害を残すことになったにも関わらず、その症状が全く又はほとんど認められ事案が、非常に多く発生しています。
 例えば、頚髄損傷で歩行が困難になり車椅子状態になった被害者(後遺障害4級レベル)に対して、極端に低い後遺障害等級(14級や非該当など)が自賠責で認定され、訴訟で争うも被害者の後遺障害等級が変わらない事案が多数発生しています。
 同様に、CRPSと診断され、事故後に被害者の片腕がほとんど動かなくなり、ついには片腕が拘縮(全く動かせない)の状況(後遺障害4級レベル)に至るも、自賠責では極端に低い後遺障害が認定され、訴訟でも被害者の主張が認められない事案も多数発生しています。
 また、高次脳機能障害、軽度外傷性脳損傷(MTBI)と診断され、被害者の認知能力が極端に低下し、ほとんど仕事が出来ない状態(後遺障害3級から7級レベル)に至るも、自賠責で極端に低い後遺障害とされ、訴訟でも被害者の主張が認められない事案が多数発生しています。
 さらに、低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)で全く仕事が出来なくなった被害者に対して、自賠責で非常に低い後遺障害認定がなされ、訴訟でも被害者の主張が認められない事案が多数発生しています。
 このほかにも、視神経損傷、胸郭出口症候群、手根管症候群、頚椎椎間板ヘルニア、脊髄分離症など多くの傷病で被害者の症状が認められない事案が発生しています。


2 裁判ではほぼ全て被害者側が敗訴している

 上記の事案では、被害者の現実の症状とはかけ離れた後遺障害認定がなされているため、被害者側の多くは訴訟で争っています。 しかし、ほとんどの類型の事案で被害者は敗訴しています。このことは判例集(交通民事裁判例集、自保ジャーナルなど)で確認できます。 ほとんど全ての事案で被害者側が敗訴しています。まともに戦えていない事案が多いのが現状です。
 被害者が重度の障害に苦しんでいるのであれば、その症状をそのまま認定して判決を出すべきであると普通の人は考えるはずです。しかし、裁判所は様々な理屈で被害者の症状の症状や事故との因果関係を否定しています。


3 被害者側の敗訴の要因

上記の被害者側敗訴の原因はどこにあるのでしょうか。考えられるものを列挙していきます。


  1. 研究不足
     私の見たところ、裁判例が上記の状況にあることをよく理解しないまま訴訟を起こしとた考えられる事案が多いです。裁判例での被害者側の主張からは、「実際に被害者が重い後遺障害に苦しんでいるのだから、裁判所も認めてくれるはず」という考えだけで、訴訟を始めた事案がかなり多い感じもします。
     実際には、交通事故関係の著書に書いてある初歩的な医学知識では損保側の主張に太刀打ちできません。

  2. ある程度の医学的知識を主張している事案
     被害者側がある程度の医学的知識を主張している事案も散見されますが、ほぼ全てが被害者側の敗訴です。損保側のウソは医学的知識だけではなく、それを取りまく多くの事柄に及んでいて、それに対処できていないからです。

4 私の取っている対抗策

  1.  傷病ごとの損保側の主張を研究する
     加害者側の主張は傷病ごとにほぼ類型化されています。傷病の種類ごとに誤ったないし根拠薄弱な医学的知識(以下、ウソ医学といいます) を使い分けています。そのウソ医学への反論をあらかじめ用意してから訴訟を始めるべきです。

  2. 医学的事項を徹底して調べる
     私は医学書や関連書を600冊以上購入して、徹底して損保側の主張を調べてきました。損保側のウソが医学的に明らかである場合には、それを指摘します。

  3. 医学意見書の作成名義を争う
     私は「その意見書を本当に自分ひとりで書いたのですか、補助した人はいませんか」との求釈明を毎回しています。損保側がこの釈明に適切に答えた事案はこれまでに1度もありません。
     以下はあくまでも私の個人的な感想ですが、私がこれまでに見た損保側提出の医学意見書(令和2年12月時点で80通ほど)で本当にその作成名義人の医師が作成したと信じられたものは1通もありません。
     もちろん医学意見書の中身についても徹底的に反論していますが、その作成名義についても徹底して争うべきです。
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  5. ウソ医学以外の誤った理屈にも対応する
     加害者側(損保側)が主張してくるのは、ウソ医学のみではなく、ウソ医学を支えるための誤った理屈も多く含まれています。それについてもなぜそれが誤っているのかを丁寧に反論します。  例えば、「診断を否定することにより症状を否定する」との理屈も多数の裁判官を入れ食い状態で騙している理屈です。このような騙しの理屈を多数繰り出してきます。

  6. その他
     このほかにも以前の事件で損保側のウソを信じ込んでしまった状況にある裁判官への対応策なども必要です。

5 他の事務所はどうしているのか

 それでは巨大な広告を展開して交通事故事案を多く受任していると考えられる大手の事務所はどのように対応しているのでしょうか。
 私の知る限り、それらの事務所がこの種の訴訟で勝訴している裁判例は非常に少ないです。
 むしろ、訴訟となれば多大な時間を要することや勝訴の可能性が低いことから、訴訟を避けているのかもしれません。訴訟となれば全ての入通院先のカルテを入手して、翻訳するなどして主張の応酬がなされます。医学的な争いが大きい訴訟は3年以上の時間を要することがほとんどです。
 また、弁護士費用特約の問題もあります。弁護士費用特約の払い渋りはかなり多く、特に難易度の高い訴訟では払い渋りは酷くなります。そのため訴訟をやりにくいのも事実です。
 このような事情から、訴訟を避けて示談で終わらせていることが多いことが予想できます。


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