(14級とするかどうかで検討される事柄)
- ある程度の期間の通院実績が必要である。最低でも半年以上通院しなければ後遺障害は認定されない
- 事故後1か月以上経過して新たな症状が生じた場合には事故により生じたものとは認められにくい
- 事故後の症状の一貫性がなければ後遺障害は認められにくい。痛みの場所や症状に変動がある場合には認められにくい
- 天候や体調により症状が軽微になる場合には認められにくい
- 神経学的所見の有無を重視している
- 14級でも画像所見が要求されることが多い
- 事故態様が軽微であると後遺障害を認められにくい
- その他の事情
以下では、各項目について、その内容と被害者が取りうる対策について検討します。
A:通院期間(ある程度の期間の通院実績が必要である。最低でも半年以上通院しなければ後遺障害は認定されない)
症状が軽快して通院しなくなったのであれば、後遺障害がないとされるのは当然です。しかし、仕事が忙しいなどの理由で、症状が軽快していないにも関わらず通院をやめてしまう方がおられます。短期間で通院を止めてしまうと、その後に痛みやしびれなどの症状が続いても後遺障害は認められなくなります。
★対策
対策として、仕事の後に通院できる病院を探して通院を続ける必要があります。特に痛みが酷いのであれば有給休暇を取るなどして通院した方が良いと思います。
注意点は接骨院への通院は自賠責では否認されやすいことです。接骨院は比較的遅い時間まで開業しているところが多いため、終業後に通院する先として選択される方も多いのですが、①医師による治療ではないこと、②健康保険が使えない場合が少なくないこと、③治療件数が増えて高額化する場合もあることなどの事情で、自賠責や任意保険会社から治療費の支払いを拒否されることがあります。
裁判例では接骨院の通院には医師の指示書が必要であるとしたものもあります。もちろん、接骨院は病院の指示で施術をするわけではなく、施術の対象は独自の判断で決められます。医師の指示書は一般論としては必要ありません。
しかし、接骨院に通院する場合には、医師により「接骨院等での通院継続が必要である」などの指示を書面で受けたほうがよいと思います。診断書に付記してくれるように医師に依頼すると、付記してもらえる場合があります。
B:新たな症状(事故後1か月以上経過して新たな症状が生じた場合には事故により生じたものとは認められにくい)
自賠責では事故後に一定期間が経過してから新たな症状が生じた場合にその症状と事故との因果関係が否定されやすくなります。しかし、むち打ち損傷の場合には1か月後に手指のしびれが生じる事案もあるため、一概には否定できません。
また、実際には事故直後の時期からその症状が存在したが、別の箇所の痛みの方が強かったため、診断書に記載されなかったとの事情が存在する場合もあります。
★対策
むち打ちなどの事案で症状が遅れて生じることはしばしばありますが、初期症状としての肩や腕のはり、だるさなどの症状がその前段階で生じていることが多く見られます(急に強い痛みが来ることもありますが)。対策としては、これらの初期段階の症状を慎重に観察して、医師にはっきりと症状の場所を告げて、治療を受けることが必要です。
また、警察や保険会社などに診断書を提出する際には、自分が訴えていた痛みの部位が抜け落ちていないかどうかを確認する必要があります。医師に言えば診断書の病名を書き足すなどして対応してくれる場合が多いです。
C:症状の一貫性(事故後の症状の一貫性がなければ後遺障害は認められにくい。痛みの場所や症状に変動がある場合には認められにくい)
症状の一貫性が問題となる事案は、複数の部位に痛みやしびれの症状が生じている事案で、転院した病院がそのうちの一部しか診断書に記載しない場合などです。自賠責では原則としてカルテの検討はしないのでカルテの記載の有無の問題ではありません。病院ごとに診断書の病名に違いがあっても治療の部位が同じであれば問題はありません。
★対策
これに対する対策としては、医師にはっきりと症状を告げることと、診断書の傷病名から一部が抜け落ちていないかを確認することです。
病院によっては「うちは上半身だけを診ている」として、腰痛や下肢痛が記載されない場合もあります。この事情があればそれを診断書に付記してもらうように医師に要請するべきです。
D:天候や体調による症状の変化
普段の症状が軽微であり、天候や体調によりそれが悪化するのであれば、後遺障害と認められないのはやむを得ない面もあります。しかし、普段から痛みやしびれが出ていて、天候や体調によりそれがさらに悪化するにも関わらず、普段の症状が軽微であると誤解されるのは避ける必要があります。
★対策
これに対する対策としては、普段から症状が続いていることを医師にはっきりと告げる必要があります。「普段から痛みやしびれがあって、それが特に強くなる日がある」との趣旨が分かるように診断書に記載してもらう必要があります。
E:神経学的所見の有無
自賠責では「神経学的所見に乏しい」という理由で後遺障害を認めないことが良くあります。実際にその所見が存在しないのであれば、やむを得ない面もあります。
ところが、何をもって神経学的所見とするのかがはっきりしないという問題があります。痛みやしびれも神経学的所見ですが自賠責ではこれを除外している場合もあります。また、検査のうちの一部のみを神経学的所見と呼んでいる場合もあります。
また、腱反射は正しくは「その所見の有無により症状の程度の判断が左右されない」と言えるのですが、自賠責では腱反射を重視している場合もあります。自賠責では後遺障害を否定する結論を決めてから、枕詞として「神経学的所見に乏しい」と述べているように見える認定も多く見られます。
★対策
この問題は自賠責の認定の傾向の問題であるため、対応しにくい面があります。ただし、症状が重い場合には別の精密検査を受けるべき場合もあり、これにより新たな検査所見が得られる場合もあります。新たな検査を受けるためには現在の主治医と相談する必要があります。
現実には胸郭出口症候群やCRPSなどの事案では、自賠責は症状を裏付ける検査結果を無視ないし軽視する傾向が強く存在します。そのような場合にはその疾患に詳しい弁護士に相談するなどして対応する必要があります。
F:画像所見
MRIで神経を圧迫している状況が確認できない場合には、12級のみならず14級にも該当しない理由としてこの点を指摘する認定はしばしば目にします。また、MRIなどで「神経を圧迫している」と検査結果に記載されても、自賠責ではその評価を否定される場合もあります。
★対策
自賠責では意図的な払い渋りが疑われる事案も少なからずあります。このような事案に対して事前に対応策を取ることは困難です。対策としては、異議申立において14級で画像所見を求めることは適切ではないことや、検査結果に反するとの主張をする必要があります。
別の検査結果でさらに症状が裏付けられる場合もあるので、後遺障害認定の前に弁護士に相談することをお勧めします。私の経験では相談に来られた方に別の検査を受けるように具体的にアドバイスしたことが有利に働いた事案がいくつかあります。
G:事故態様
自賠責の認定では、怪我をしたことそれ自体を否定する理由として事故態様に言及することはあっても、後遺障害を否定する理由として事故態様に言及することはありません。しかし、背景事情としてこの点が考慮されたであろうと推測できる認定はしばしば目にします。
事故態様が軽微であっても後遺障害が残る場合もあり、ときには重篤な後遺障害が残る場合もあるので、私は事故態様に強くこだわることは誤りであると思います。しかし、事故の実態が伝わらないことや事故が過小に見られることにより不利益を受ける可能性はできるだけ排除する必要があります。
★対策
対策として事故直後の双方の車両の写真を取っておくことや、修理見積のコピーを保管しておくことは必要です。
目視では凹みがはっきりと識別できても、写真では識別できないことがしばしばあります。大きな凹みであっても写真では識別できない場合もあるので、写真を取る際には車との距離、角度、光の具合などに気をつけて、できるだけ多くの距離と角度から写真を撮る必要があります。
自分の車の損傷は目立たなくとも相手の車の損傷が大きな場合もあるので、相手の車の写真もできるだけ撮っておく必要があります。スマホで撮影した車両の画像が決定的な証拠となる場合もあります。訴訟では加害者側は車の損傷が分かりにくい小さな写真を提出するなどしてごまかそうとすることが良くあります。
良い証拠写真を取るコツはできるだけ多く角度と距離から、できるだけ多くの写真を取ることです。